宙に星 虚空に神

 

 

◆   ◆  ◆  ◆  ◆

 

―― ふと、思うときがある。

―― この世界の神は何を思って、オレたちを作ったのか、と。

―― 人の手助けをするためか。

―― 四季の調和のためか。

―― 千年以上の生の中で何時からか、そんなことを考えるようになった。

―― 結局答えは未だ見つかることなく、ただ闘神士に出会い、そして別れ、また独りで過ごす時が訪れる。

―― 永久の輪廻。

―― それが、オレたちに――式神に定められた生。

 

◆   ◆  ◆  ◆  ◆

 

星 が瞬く。傍では月が輝く。耳に出来るのは風の音と一定のリズムを刻む、虫の声。昼間の五月蝿さを忘れさせる、夏の一夜。

「コ ゲンタ」

部 屋の窓際で寄りかかり、空を見上げていたオレの鼓膜を揺らしたのは、幼さを残す少年の声。今の、オレの主。

「目 が覚めちまったか?」

空 へ向けていた視線を暗い部屋へ向け直せば、上半身を起こし、此方を見ている人の眼差しと交差する。

赤 茶にも似た色の髪に、黒には遠い薄い虹彩。寝巻が寝相の悪さで少し崩れていたのを直しつつ、彼は布団から這い出てオレの元へ歩み寄ってくる。

「ど うした? 明日も修行 すんだから休めるうちに休んどけって」

「そ う、なんだろうけどな……」

眼 が冴えた、と苦笑を浮かべる少年の様子がおかしい。子供らしからぬ、何かを押し隠すような、そんな表情。色々抱え込んでいるのは重々承知しているものの、 ここまで隠し切れずにいるのは珍しい。

「モ ンジュのことか?」

窓 を開け放てば、少し湿っぽい夏の夜風が部屋に入り込んでくる。その風に髪を揺らしながら、少年はオレの発した言葉に薄く笑みを浮かべて見せた。

「そ んなとこ、かな。夢に父さんが出てきて……ちょっと、な……」

「…… 大丈夫だ、モンジュは助けられる。オレとお前でな」

そ の笑みが余りにも辛そうに見えたのは、きっと気のせいではないのだろう。

千 年以上生きて、『人』と関わってきたが、それでもオレはまだ『人』の全てを理解することは出来ていない。だが、その表情から見える少年の心の内は、今まで 似たものを何度も見てきた。

「辛 いなら、泣いたっていいんだぜ?」

「バ カいうなよ、コゲンタ」

手 を、少年に向かって伸ばす。オレよりも数センチ小さい頭に手を乗せ、乱雑に切られた髪を梳いてみる。

「信 頼の式神だぜ? お 前が信頼してくれているなら、オレはそれに応えてやる」

「泣 かないよ。……泣いたって、父さんは帰ってこない。俺が強くなって、父さんを助けるまでは、泣かない」

く すぐったそうにオレの手を柔らかく退けた彼は、そう言って空を見上げる。

星 が瞬く、宙。

深 い藍色の中で光り輝くその星は、既に消えうせてしまっているものもある、と耳にしたことがある。

ま るで、人と同じ、短き命の瞬き。

「コ ゲンタ」

「ど うした、ヤクモ」

隣 に立った少年が、オレの顔を見ずに名だけ呟く。律儀に返す必要はないが、何故か返したくなった。

「…… オレ、助けられるよな。お前と一緒なら」

「…… 当たり前だ。お前は強くなってる。そしてまだ強くなる」

言 葉を区切り、自分よりも頭ひとつ小さい少年の眼差しを此方に向かせる為、尾を振って鈴を鳴らす。

「お 前がオレを頼る限り。お前とオレの気持ちが離れない限り。お前とオレが、信頼しあえば、もっともっと、な」

「そ う、だな」

オ レの言葉に口端を思い切り歪め、彼は笑う。

「そ うだ。笑ってろ。泣かないって決めたならな。泣かないで、モンジュを助けた時に思い切り泣け」

「…… あぁ」

戦 いはまだ激しくなる。それは、お互い口に出さずとも予測している。

そ れがお互いわかっていて、ヤクモは泣かないと言った。

な らば、彼の式神としてオレがすべきことは、ヤクモを助け、力になること。

“信 頼”の式神に恥じぬ、信頼を彼と繋ぐこと。

「なぁ、 そろそろ寝ようぜ」

「起 きてきたのはお前だろうが」

年 半ばの彼には重い宿命。それを背負いつつ、彼は前を見つめる。

ま るで、彼の父のように。時折彼の父を彷彿とさせる子供らしい眼差しに鼓動が跳ねることもあるが、それは言わない。

今 のオレの契約者はモンジュではない。

ヤ クモなのだから。

「ほ ら!」

も ぞもぞと布団の中へ潜り込んでいったのを確認したオレが再び空を見上げていた矢先、少年の声が耳に飛び込んでくる。

「あ?」

「あ、 じゃないよ。ほら!」

布 団に入ってすぐに寝るかと思えば、暗がりの中にいる少年は、狭い布団の端へ寄り、もう一人入れるくらいの空き場所を作って手招きしていた。

「…… ヤクモ。オレは式神だ」

「知っ てる」

「式 神は別にココで寝る必要はねぇんだよ」

「知っ てる。闘神機で寝てるもんな、普段」

「…… わかってんならさっさと寝ろ」

―― こんなくだらない会話、初めてだ。

溜 息を隠すことなく吐き出したオレに対し、ヤクモは頬を膨らますかと思えば、ただ淡い笑みを浮かべてじっとオレを見ていた。

「コ ゲンタ」

「…… んだよ」

「た まには、いいだろ?」

再 度溜息を吐こうと溜めていた息が詰まる。

年 若い、たった十年少ししか生きていない子供が、考えることはわからない。それも、出会って数週間しか経っていない、人間の子供の考えることなど。

た だ、彼の視線は優しく、そして言葉は心の底からのものであるのがわかった。

わ かってしまった。

「……っ たく、赤ん坊かおめぇは」

聞 こえるように毒を吐いたが、彼の表情は変わることなく。それきり無言のまま上半身を起こしたまま掛け布団を持ち上げている彼の隣に身体を寄せる。

「…… あちいな」

「夏 だからな」

そ うじゃねぇだろ、という言葉を呑みこみ、眉を寄せつつ瞼を閉じれば、訪れるのは闇。ただ、冷たい闇ではない。傍らにある温もりが伝える、安らぎの闇。

「…… コゲンタ」

「…… んだよ」

背 後から聞こえる、少年の声。

笑 みを含んだ、優しい声。

 

「お やすみ」

 

「お う……」

 

◆   ◆  ◆  ◆  ◆

 

空 に満天の星。

其 を天満星と言い

人 は想いを馳せた。

願 いを神へ投げかけ、

想 いは空へ投げ掛けた。

神 は其を如何様に捕らえ、

世 界へ還元していったのか。

其 れは誰にも知り得る事なく、

た だ、人に仕えし式神が現れた。

四 季の神であり、式に囚われた神。

神 の字を抱きつも神に成らざる存在。

彼 の者達は何も求めず、ただ人に仕え、

人 の生を幾数も見ては新たな主に仕えた。

星 の瞬きと人の生。其は互いに刹那であり。

儚 く脆くそして美しく。まるで、逢瀬のよう。

 

巡 る四季、散る命、出づる生。

神 は全てを知りつ、四季神を人に与えたのだろうか。

 

 

 

―― 了――

 

 

 

ア トガキ

 

陰 陽大戦記の文章を書き上げるのは実に何年振りでしょうか。サイトのリニューアルに伴い、今のボクはどんな物語を紡げるのか、試したくなりました。

 

御 挨拶が遅くなりました、和紗です。

 

ボ クが同人活動するに当たっての原点。それが陰陽大戦記。気が付けば放映から幾年も経ってしまっていますが、彼の作品に対しての愛は今も変わらず、といった 所でしょうか。

こ の作品を書き上げるにも、なんの資料確認もせずにすんなりと。ヤクモもコゲンタも、未だにボクの中では息づいているんだな、と。まぁ少しヤクモさんがオト ナっぽくなってしまった感はありますが。

 

 

あ まり、語っても致し方ありませんね。いつか、オフラインでももう一度陰陽大戦記はやりたいな。コゲンタ受というマイナーどころで、また(苦笑)

 

 

こ んな何もないアトガキまでお読みくださり、ありがとうございました。皆様にも、四季神の御加護があらんことを――

 

 

2010/07/07 伴和紗 拝