星 光

 

 

◆  ◆  ◆  ◆  ◆

 

――星を見に行こう。

夜中突然現れて脈絡無くそう言ってきた兄に対して少年は思い切り眉を 顰める。しかし、目の前の青年は満面の笑みを湛えたまま少年の手を取り、返事を待たずに連れ出そうとしていた。

「ちょっと! やだよ、眠いもん」

「凄く綺麗なんだよ? 見て損はしないって!」

布団から離されないようにしがみつくが、見た目以上に力のあるカイト は 布団もろとも連れ出そうとするので少年は諦めて布団を手放し、思い切り睨みつけた。

「わかったよ、付き合ってあげるからちょっと待ってよ。外出るんだか ら着替える」

「別にそのままでも可愛いのに……」

「じゃあ一人でいけば?」

冷たくあしらおうとしてくる弟に苦笑いを返したカイトが傍にあった椅 子に腰を下ろすと、寝癖がつきかけている山吹色の髪を指で弄りながらレンは胡乱げに彼を見返す。

「何してるの……?」

「え? 待ってるんだけど……」

「外で待ってなよっ! 着替えるって言ってるじゃん!!

「別に恥ずかしがる事ないのに……」

窓から差し込む灯りは極々微量で、深夜であることを指し示す時計が刻 々と時を刻んでいる中、レンは出来る限り抑えた声音でカイトに枕を投げつけて部屋から追い出すと、不承不承といった様子で箪笥から翌日の着替え取り出して 着替える。電灯を点していないほぼ闇の中に近い中で日頃の感覚を頼りに着替えを済ませ、バナナ柄の入った寝巻は綺麗に折り畳んで寝台の上に置いておいた。

ドアをそっと開いて音を立てないよう気をつけながら部屋を抜け出し、 フローリングの床を軋ませないよう一歩一歩慎重に歩を進ませ、レンは外へと出る。微量の風が彼の髪と頬を撫で、その心地よさに目を細めていれば、数歩離れ た位置で空を見上げているカイトの姿が視界に入り、少年は彼の傍へと近づいていく。

「で、何が綺麗なんだっけ?」

壁に寄りかかっていた青年の隣まで歩み寄り、憤然とした面持ちで腕を 組めば、背丈のある青年は彼に向かって微笑むとその手を取って歩き出した。

「ちょ、何処行くのさ!?」

「ん~、もっと良く見えるところ、かな」

それきり笑みを湛えたまま一言も発さなくなった青年に引張られ、レン は頬を膨らませるも深夜の町を見回す。昼間なら人通りが無いわけではない住宅路は街灯の立てる音が聞こえ、遠くを走り抜ける車、ないしロードローラーの音 が昼間以上に響き渡る。静寂に耳を傾ければ何処からとも無く虫の鳴き声が聞こえ、太陽の出ている時間にはない空間を歩き続けた。

彼に引き摺られながら辿り着いたのは、近所にある河辺だ。電柱や大き なビルも周辺に無いそこは確かに上空を見上げるには適しているとも言える。しかし、それ以上に少年の気を引いたのはすぐ傍で流れている河だ。すぐ傍で流れ ている音が聞こえているのにもかかわらずその流れを視界に捉えることはできない。暗闇の中ではその闇に溶け込んだのか、はたまた闇を取り込んだのかは不明 だが、河の色を見ることは出来ず、夜と昼とではこれほどまでに表情が違うものなのか、と一人感心していた。

「ほら、見て?」

手を繋いだまま頭上から声を掛けられ、そのまま頭を上に向ける。河辺 の石に躓かないように足元ばかりを見ていたレンは気付かなかったが、そこには確かに家からでは見られない景色が広がっていた。

「う、わ……」

漏れ出る感嘆の声。それまで町を歩いているときに見てきた人口の灯り ではなく、もっと高い場所から降り注ぐ幾つもの光。視界を覆いつくしていた闇の中に数えきることなど出来ない程の星明りが広がり、レンはカイトと繋いでい た手に知らず力をこめる。それぞれが異なるタイミングで瞬きを繰り返し、呼吸すら忘れそうなほどに魅入っていれば同じ様に空を見上げていたカイトが口を開 いた。

「星の光は、“今”のものじゃないらしいね」

「どういうこと?」

星に向けていた視線を隣の青年に向け、少年が彼の続きを促せば、カイ トは視線を天空に向けたまま続ける。

「星の光っていうのは、今、俺達が見ているものはずっと昔の光らしい よ。ずっとずっと遠くに離れた星はああやって光を放っているけど、もしかしたらこうして俺達が見ている星の中にはもう無くなってる星もあるかもしれないん だってさ。そう考えると、凄く淋しくならないか?」

瞬き続けている無数の輝き。闇という帳の中でその闇を強調するように 光り続けている星の光は、文字通り光の速さで真空の海を渡り、ヒトの瞳に届く。何億年も、それは気の遠くなる遠い年月を渡り、届く光の発信元は二人が見上 げているその時間の中では既に存在しない星なのかもしれない。

満天の星空。それは壮大でヒトに感動を与え、それでいて儚い。

口を噤んで腰を下ろしたカイトに習って、レンも河の流れに削られた小 石で形成されている地面に腰を下ろす。座っても完全に見ることが出来ないカイトの顔を眺めていれば、その視線に気付いたのかカイトの藍色の瞳が少年へと向 けられ、レンは慌てて彼から視線を外して上空を見上げた。

数えられないその星達のうち、幾つが今は存在しない星なのだろうか。 一つだけなのか、二つ三つですむのだろうか。それ以上に、もっと多くの星が今は存在せず、過去にあったという事実を知らせているのだろうか。

カイトの言葉を聞いた後に見上げる空は酷く切なく、レンはその端正な 眉根を少し寄せて上空を見つめ続ける。

「確かに、少し淋しいかもね……」

先ほどのカイトの言い分を肯定し、レンは再び隣に座る青年に視線を向 けた。

「でも、こうして星を見てれば他にもいっぱい星があるわけだし、まだ 出来立ての星の光も見れているのかもしれないよね」

終焉ばかりではなく、始まりの瞬間を。創生された瞬間の星の光が今目 に入ってきているのかもしれない、と小さく微笑んだ少年に、カイトは一瞬瞳を大きく開いて驚きを露にする。

「そうか。そうかも、しれないな……」

隣に腰を下ろして見上げてくる弟の言葉に、青年は微笑みを返した。

「そうだな。確かに、生まれたての星もあるんだろうな……。全部が全 部、消えているものじゃないんだよな」

「そんなんだったら、いつかこういう星空なんか見れなくなっちゃう よ。ってことは、やっぱり消えていく星もあれば生まれてくる星もあるってことでしょ?」

青年を驚かすことが出来て少し満足しているのか、少年は指を立てて軽 く左右に振ってみせる。その姿を闇でおぼろげながら見たカイトは小さく苦笑して徐に繋いでいた手を引張って少年の身体を自身の懐に抱きいれた。前兆の全く 無い唐突な行為で完全にバランスを崩したレンは建て直す間もなくすっぽりと青年の懐に収められ、背後から抱き締められる形になる。

「ちょっと! 見えないんだから危ないよっ!」

「大丈夫だよ。何処もぶつけなかっただろう?」

懐から抜け出ようともがいてみるが、自身のわきの下から出てきている 青年の腕が完全に固定されており、全く身動きが取れない事を知った少年は諦めたように嘆息して自身の真上に位置する青年の顔を仰ぎ見た。

「で、いきなりなんなの?」

「や、特に理由は無いんだけどね」

何かしらの意味があって抱きしめられているのかと思いきや、理由は無 いと答えられては怒りを通り越して呆れるほか無く、レンはもう一度深い溜息を吐く。

「意味不明の行動取らないでよ。何したいのか全然わかんないし」

幼い子供が縫いぐるみを抱くような抱き締められ方が気に食わないの か、言葉の端々に棘を込めてレンが呟けば、カイトはただ苦笑して腕にこめる力を少しだけ強める。互いの体温が服を通して伝わり、石だらけの地面の感触に少 しだけ身を捩じらせていたレンもそれきり言葉を発さず空を見上げた。

 

降り注ぐ星の光はただ優しく。

無言で宙を見上げる彼らに降り注いでいた。

 

 

 

 

――了――

 

 

 

 

アトガキ

 

 

 

気合と根j(ry

 

 

こんばんは、和紗です(平 伏)

 

 

ふと思いついたネタです。いちゃつきも何も無いただの自己満さっ!()

何か書きたいなー、でもぇろやらないとなー、とか考えてたんだけど、 データがUSBだったので手元に無く、持ち出したパソコン を開いたはいいけどさてどうしよう、とか思ってたらこんなの出来ました(苦 笑)

 

ん~、カイト兄がまだ掴みきれてないんかなぁ、私は。レンもいつもよ り強いしねww

あれか、カイト兄の前では強い感じか?それはそれで美味しい……の か??

 

今回ははっきり言ってアトガキに書くようなことは無いです。この話を 読んで、何かしら感じてくれればそれで満足だから。

最近は二次創作ばっかりやってるけど、私、ガッコでは一次創作だって やってるんだよっ!?()

駄文なのは変わらないけどね!!(T_T)

 

ではでは、こんなところまで読んで下さいましてありがとうございまし た。

 

皆様が良き夢を見れますよう――

 

 

2008/06/01 伴 和紗 拝