色別

 

 

◆  ◆  ◆  ◆  ◆

 

食事の一時を終え、充足感に満たされていた面々は各々自由時間とな り、好き勝手に自信の時間を愉しむ、はずだった。

「マスター、何を読まれているんですか?」

事の発端は手にカップアイスを持ち、口には木材で作られた簡易スプー ンを咥えたままソファに近づいたカイトの言葉。足を組んだままの状態でなにやら本を読んでいる青年に声を掛けて読んでいる本の中を知ろうと覗き込む。

「行儀が悪い。せめて座るなりしろ」

常日頃から寄っている眉間の皺を更に深めながら青年は彼の隣に座って いたレンを膝に乗るよう促してカイトに向かって空席となった隣をぽん、と手で叩いた。

「残念ながらお前らの求めるような音楽関連の本ではない。単に俺の趣 味だ」

本を閉じて背表紙をカイトに見せる。

「色の、本……?」

背表紙に書かれた文字を戸惑い気味に読み上げたカイトに本を手渡して いると、風呂上りらしく頬を上気させたメイコが一升瓶とお猪口を片手にやってきた。

「なになに~、何かおもしろいことでもあった~?」

既に酒が入っているのか上機嫌な彼女はソファの上に腕を乗せて手酌を しながらソファに座っている三人に混じりながら、カイトが見ていたものを覗き込んだ。

「あら、カラー写真で綺麗ね」

「色ってこんなに名前があったみたいだよ、メイちゃん」

見覚えはあるのに知らなかった名前や、聞いたことがあるだけの名前な ど、様々な色名がその色を司っている動物や植物、鉱物の写真と共に掲載されており、ページをめくるたびに彼らは思い思いに写真を指差してみたりする。

「へぇ。マスターってこういうのが好きなんですか」

一通り目を通しながらも未だにページを行き来するカイトが持ち主であ る青年に微笑めば、青年は軽く肩を竦めた。

「興味があるというだけだな。それに、だいたいの色名は頭に入ってい る」

例えば、と青年は膝に乗せたままのレンの髪を指で梳かす。

「リンとレンを色で区別するとき、レンはよく所謂(いわゆる)黄色よ りも赤みがかった色で表現されるな。その本で言うならば、山吹色とでも言うか」

カイトから本を受け取り、パラパラと本をめくり、とある一ページを開 き、そこにいる全員に見えるように大きく広げた。

「山吹、とはこの通り植物の一種だ。ここには平安時代、と書かれてい るが、勿論今でもよく使われる色の一種でもあるな。二十四色の色鉛筆にはあるはずだ」

そもそも、と青年は講義をするように指を立てながら話を続ける。

「平安時代と書かれているだけだが、この表記をより詳しく述べるのな らば、“山吹”は古来より春の季語として様々な和歌にも詠まれている。花の大きさは小ぶりながら、山中で咲いている様に感慨深いものがあったのだろう。更 に付け加えるのならば、山吹の花言葉は“謙遜”という。ま、これはレンに当てはまりはしないがな」

そう言うと、今度は別のページを開きながらメイコの持つ猪口に手を伸 ばし、中に入っていた日本酒を一息に飲み干した。

「リンに関しても、ただの黄色と表現するよりも蒲公英色というべきだ と俺は思っている。まぁ、色合いとしては同じ様なものだが、何処にでも生えている蒲公英は昔薬草と用いられていた植物でもあった。こちらの花言葉は“神 託”。山吹といい蒲公英といい、子どもには似つかわしくない花言葉を持っているものだが、ただの色も何かしらの意味を付け加えた方が面白いものだろう?」

“謙遜”が似合わないと言われたレンは気に食わなかったらしくその頬 を少し膨らませるが、カイトもメイコも彼のそんな姿には気付かずに互いを指差しして青年を見ている。

「メイちゃんは?」「カイトは?」

色と花に例えられたのがよかったのか年長組の二人も興味が沸いたらし い。同じタイミングで発せられた質問に青年は小さく苦笑をしてみせ、再び本を開く。

「カイトは……、そうだな。青という色だけでも様々あるが、その中で も藍なんかが一番近いだろう。こいつも植物だが、藍は昔から染物の染料として用いられてきている。中には相当高価なものになる織物もあるほどだが、やはり 古くから親しまれているものと言える。藍色という色を染料として造るときに用いるのは葉の部分だ。これを発酵させるなどしてあの鮮やかさを作っている。そ して、これは心理学的な話になるが、青という色にはどうやら人に対して鎮静作用があるらしい。とはいえ、カイトを見ていたとしても落ち着くとは言えないが な」

「マスター、ひどいです……」

最後を皮肉げに締め、口端を吊り上げた青年に対して、それまで相槌を 打つなどして真面目に聞いていたカイトは肩を落とすが、メイコもレンも青年の言葉にクスクスと笑みを見せるだけで、彼をフォローする気は無いらしい。

「さて、メイコだが。お前に色で区別なんて必要あるか?」

首を上に向けてメイコに視線を向けながら、青年はさも当然といわんば かりの口調で投げ掛ける。

「何でですか、マスター?」

「一升瓶、ワンカップに下乳。これ以上お前に何か付属してもしょうが ないだろう。そもそも俺がこの本見てたのはレンの為だしな」

「オレの?」

まさかメイコとの会話の中で自身の名前が出てくるとは思っておらず、 ずっと膨れていたレンが驚いて青年を見上げると、彼は少しだけ眉根を寄せてレンに視線を向けた。

「カイトはアイス、ミクはネギ。リンのロードローラーにメイコの酒。 お前には“少年”というもの以外にキャラ立ちが少ないだろうが。それだけで充分という人も中にはいるかもしれないが、やはりもう少しキャラ立ちしないと後 々が辛くなるからな」

「そ、そんなッ!?」

「あ~、確かにレンの位置って微妙っちゃ微妙よね。なるほど、だから 色で何か無いかって思ったのね」

キャラ立ちしてないと面と向かって言われ、ショックが大きかったらし く俯いたレンに知らず追い討ちをかけるメイコ。青年は彼女の言葉に苦笑をしてみせ、膝の上で頭を垂れているレンのその頭を軽く叩いた。

「まぁ、そんなに凹むな。結局お前はお前であって、むしろそのキャラ 立ちしていなさも個性と取れなくも無いしな」

「それ、慰めになってないです、マスター……」

乾いた笑いをしながらカイトが口を挟み、意気消沈しているレンの手を 取って視線を合わせようとしゃがむ。

「大丈夫だよ。レンはレンなんだから、変にキャラ立たせなんかする必 要ないんだ。レンは自分らしくいればいいんだよ」

カイトの言葉にゆっくりと顔を上げ、レンはカイトの言葉に肩を竦めて いた青年の顔を見る。

「オレ、そんなにキャラ立ってない?」

「カイトが言ったことも一理ある。それに実力派になるという道もあ る」

何処か溜息混じりに言いながら彼は本を閉じ、レンを乗せたまま大きく 伸び上がる。

「その分、俺がきっちりお前らの音をつくらなければならないから、俺 の負担が重くなるんだがな」

やれやれ、と軽く首を振るも、彼の口元は少し楽しげに笑みを浮かべて いた。

「さて。そういうことで俺は新しい音作りに入る。この本は置いていく から読みたければ好きに読め」

レンを下ろして青年はどうしたものか、と独り呟きながらリビングを後 にしていき、残された三人は、メイコがどの色か、という結論を出すために本を開く。

「あ、コレ綺麗じゃない?」

「でも、メイちゃんとは違うね」

一冊の本を囲む姿に誘われ、一緒に風呂に入っていたリンとミクも合流 し、全員が本の写真に目を奪われる。

平和な日常、平穏な日々。そして、知らず色に囲まれている生活。

穏やかな時間に包まれながら、歌い手達は“色別”を続けていた。

 

 

 

 

――了――

 

 

 

参 考文献 『色の名前』 角川書店発行 近江源太郎監修 2000425日 発行

 

 

 

 

アトガキ(と いう名の反省会)

 

 

 

『~の名前』はシリーズとして色んなのが出てます。

 

こんにちは、駄文書きの和紗です。

 

今回はちょっと趣向を変えてほのぼのテイストでお送りしました。上手 くいったかどうかは不明だけど()

 

うん。色って色んな名前があるんですよね。植物から、動物から、鉱物 から、染料から……。

本当なら扱った本をお見せしながら、これが「山吹」とかやっていきた いけど、まぁ興味があったら調べてみてください()

因みに花言葉は別の文献からです。花言葉とかも面白いですよね。で も、何となくそのイメージが分かるっていう言葉ばかりつけられているのもまた素晴らしいと思います。因みに、石に関しても言葉ってあるんですよね。まあ、 ここでいう石は勿論宝石も含んでますが、例えばタイガーアイとかターコイズとかね。

 

何気ないものにふと気付くとき。そんなときが皆様にもあれば、それは 一時の幸せなのかもしれないですね(苦笑)

 

では、こんなどうでもいい部分まで読んでいただき、ありがとうござい ましたっ!

 

また機会がありましたら、お会い致しましょう(^^)

 

 

 

2008/04/11 伴和紗 拝