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―― いつまでもいつまでも 貴方のために歌うよ――
―― 強くなると誓った日から オレはどれだけ歌ってこれたかな――
―― 気付いているかは分からないけど オレは貴方の為だけに歌い続けるんだ――
Singing for you
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『大 切なものは、何だい?』
マ スターの家に来て、オレが初めて問われた質問だ。既存曲の合わせをして一通り歌いきった後、唐突に聞かれたオレはただどもって何も答えられずにいた。マス ターはそんなオレに一度だけ微笑むと、ウインドウを閉じてリンのところへ行ってしまった。
そ れからマスターに会うときは必ずその質問について聞いてみるけれど、マスターは曖昧に笑って答えてはくれなかった。
『大 切なものは、何だい?』
歌っ ていてもその言葉が胸を過ぎって、間違えるときがある。その度に俯けばマスターは何も言わず、もう一度、と曲を演奏し始めてくれた。その優しさが嬉しいよ りも申し訳なく、それ以上に何も言われないことが淋しかった。
『大 切なものは、何だい?』
マ スターもいなくなり一人で部屋の中にいると、隣の部屋にいるリンの声が聞こえてきた。耳をそば立てるつもりはなかったが、リンの声が大きかったこともあっ て嫌でも聞こえてきてしまう。
「…… これって……」
誰 もいない部屋で一人思わず声が零れた。今までリンもオレも既存曲ばかり歌ってきたのに、今聞こえてくるリンの声は音程を取りながら紡がれ続け、アカペラだ が聞き覚えの無い曲を歌っている。
―― 愛しい人に届け この想い――
―― 美しき調べは誰が為か 想いを馳せて今飛び立とう――
―― 紡ぎ続けると誓う 貴方の歌――
―― 茜色の空は続き 夜帳の中の月に歌う――
―― 哀しみは無い 歌えば貴方はそばにいる――
アッ プテンポで続く歌を、リンは必死で練習しているみたいだったが、オレはそれ以上聞く気になれなかった。
「マ スターの、オリジナル……」
一 度、マスターにオリジナルは作らないのかと聞いたことがある。その時は、今のところは無いよ、と言っていたはずなのに。それは、オレの歌は作る気が無い、 という意味だったのだろうか。
何 も食べる気になれず、寝台に倒れこむ。
わ かっていたはず。
マ スターは誰のものでもない。オレ一人が独占していい存在なんかじゃない。
わ かっていたはず。
な のに。
溢 れ出てくる涙を堪えきれない。悔しさとも、喪失感とも言い表せられない苦しい感覚。自分の中の何処かの回路が壊れてしまったのだろうか。
悔 しい。
哀 しい。
苦 しい。
頭 の中で検索をかけても、今までこんなに痛い想いはしたことがなく、どう対処すればいいのかもわからない。
た だ泣きはらし、いつのまにかそのまま眠りに落ちていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
翌 日起きて鏡を見れば、目元が腫れ上がって酷く不細工な自分がいた。溜息を吐いて冷水で顔を洗い、椅子ではなく寝台に座るが、落ち着かない。マスターとの待 ち合わせよりもずっと早くに楽屋へ入り、椅子に座っては立ち上がり、意味も無くうろつくことを繰り返した。
「な んだ。早いな、レン」
ド アが開き、声をかけられる。丁度椅子から立ち上がろうとしていた格好のまま見れば、いつもと変わらぬ顔でマスターが入ってきた。
「ど うした? そんな格 好のままじゃ腰悪くするぞ?」
中 腰のままでいたオレにマスターは軽く声をかけ、肩に手を置いて再び座らせた。
「な んか目が赤いけど、寝不足か?」
マ スターの問いかけにただ首を振って答え、オレは俯いたまま口を開く。
「マ スター……。オリジナル曲、作らないの?」
「ん? オリジナルかぁ。とりあえずはお前の癖とかをきち んと把握しないと作らないな」
「オ レのクセ?」
目 線だけマスターに向ければ、マスターは腕を組んで神妙な表情で何度か頷いていた。
「そ う、お前のクセ。クセとか考え方とか、色々だけどね。お前だって、歌いたいと思えない曲は歌いたくないだろ?」
俺 ならそうだけどな、とマスターは微笑んだが、オレの表情が晴れないのを知ると隣にあったパイプ椅子に腰をかけた。
「…… 前、マスターが聞いてきた『大切なもの』って何?」
何 も聞いてこないから、オレの方から口を開く。いつもなら曖昧に笑って何も答えてくれないマスターだけど、今日は口を開いてくれた。
「何 でもいいんだよ。レンが大切だと思うこと。思うもの。いつも歌ってるときに考えてる事とか、な」
「歌っ てるときに、考えてる事……」
マ スターの言葉を繰り返し、オレは体をマスターのほうへ向けて袖を掴む。
「オ レ、マスターのこと考えてる。マスターが喜んでくれてるか、マスターが笑ってくれてるか、マスターがオレのこと見てくれてるか……」
マ スターの袖を握る手に、自然と力が入る。
「オ レ、マスターのことしか考えてないよ。マスターしか見てないよ」
昨 日の夜、溢れ出てきた涙がまた零れそうになり、俯きながら言葉を続けた。
「オ レ、マスターが好きだよっ。リンみたいに女の子じゃないけど、マスターが大好きだよっ」
言 葉にしてわかった。自分が何であんなに泣いたのか。昨日、なんであんなに苦しかったのか。
「オ レの大切なものは、マスターだよっ」
マ スターをリンに取られたような気がして、悔しかったんだ。
「えー と、レン……?」
袖 をつかまれたままの体勢で、マスターが声をかけてくる。どんな顔されてるのか見たくなくて顔を上げずにいると、マスターの手がオレの頭に触れた。
「う ん、その、びっくりしたけど……俺は嬉しいよ?」
髪 に触れてそのまま梳くように撫でられる。
「ほ ら、顔上げて」
促 されるまま顔を上げれば、いつもと変わらぬ微笑みを浮かべたマスターの顔があった。
「こ れ、見てもらえるか?」
手 渡された楽譜。何も言わずに目を走らせてみれば、それは今まで見たことのない曲。
「マ スター。これって……」
言 葉が続かない。出来すぎてるとしか思えない。これが世間で言う白昼夢なんだろうか。
黙っ て楽譜を見続けていると頭を撫でてくれていた腕が離れていき、その腕の先を見れば、マスターが自分の頭を掻いている。
「そ の……感覚で書いただけだから気に入らなかったか?」
言 葉の意味を一瞬理解できず固まったけど、慌てて頭を振ってみせると、マスターはほっとしたように小さく息を吐いた。
「こ れ、オレの曲?」
「そ、 お前だけの曲。本当は昨日渡そうかとも思ったんだけど、何か様子がおかしかったからやめておいた」
そ う言ったマスターはオレを手招きして録音室へと入ると、楽譜も見ないで走りを弾き始めた。
リ ンの曲とはまた雰囲気の違う曲調。オリジナルを作ってるなんて素振りは全く見せずにいたのに、暗譜しているのかオレが目で追う譜面通りに音を奏でていく。 自然と口を開き、オレが歌い始めると、マスターは一瞬オレの方を見て笑ってくれた。
発 音が上手くいかない箇所もあった。
音 を外した箇所もあった。
そ れでもマスターが演奏してくれる限り、オレは歌うことをやめる気は無かった。
既 存じゃ無い、オレだけの曲。マスターのくれた、オレだけの曲。
作 れないと言っておきながら、オレのことを見ていてくれたから出来上がったんだと言われなくてもわかった。
最 後の一音がなり終わると、部屋はそれまでとは打って変わって静かになる。感触を確かめるように口元で呟いていたマスターだったけれど、我慢できずに飛びつ いてみた。
「ちょっ、 レンッ?!」驚くマスターに構わず腕を回してしがみつく。「オレ、頑張るよっ! 絶対完璧に歌ってみせるから! もっともっと頑張るよッ!」
椅 子から転げ落ちそうになるのを何とか堪えたマスターはオレの体を抱えながら苦笑する。
そ の視線はオレを捕らえていて。オレ以外に向けられていなくて。
そ れが凄く嬉しかった。
こ の人の為なら何でも出来る。強くなる必要があるなら、強くなれる。
―― 貴方のためになら、いつまでも歌い続けられる――
―― 了――
ア トガキ(という名のボヤキ)
何 この微妙な終わり方……orz
こ んばんにちは、和紗です。
い やはや。一人称でレンを書いてみましたが、あえなく玉砕。もう何ていうか悲惨としか言いようが無い……OTL
もっ とこう、なんていうかなぁ……上手く書きたいんだけどなぁ。尻すぼみで終わった感満々だよねー;
そ して僕の書くレンくんはどうしてこんなにヘタレンなのでしょうか?←キクナヨ
もっ と男の子男の子してるはずなのになぁ……上手くいかないなぁ……(溜息)
まぁ、 とにもかくにも書いて書いて書きまくるしかないんでしょうかね。
あ゛ ~、もっと文章書く練習がしたいです。
…… なんだろう、このぐだぐだなアトガキ。まぁいいや←ヨクネェ
月 並みですが、何か御感想等々ございましたらお気軽に御願い致しますー。批評も全然オッケーですので。
…… むしろ、よくこんなのうpしたな、とか言われても仕方ないできだし……orz
次 ボカロ書くときはいつも通り三人称で書こうと思いますです、ハイ……;;
08/2/25 伴和紗 拝